その日、ふと訪れた喫茶店を「終の棲家」と決めた。
法医学者の私にとって、「死」は誰にも平等に訪れるとても当たり前だったのに。
「不治の病」を宣告されたその時から、死はなんだかリアル。
死臭とは違う、香り豊かなコーヒー。
マスターの雰囲気があたりの居心地の良い場にしてくれる。
――突如場の空気を割いた、カップルの痴話喧嘩。
静まり返った店内をヒール音とともに去る女性とみじめに泣く男性を情けなく眺めながらも、私は人間の脂肪に似た卵サンドをほおばった。
生きている間は、お腹だって減る。
今だけは心から愛する純喫茶で、コーヒーの香りと、ささやかなBGMに身を委ね、そして友人とのおしゃべりを楽しもう。
運命の歯車はいつから回っていたのだろう。
あのさ、私の最期は泣けるのかな、笑えるのかな。
本を入手していないとコメントは書けません。
生命の重みは人それぞれ、でも人との繋がりでさらに重くなっていくのかなと感じる作品でした。3人の視点からひとつの物語となり、最後は切なさでいっぱいになりました。ショートケーキの苺がとてもとても印象に残りました。
喫茶店で読みたい、とっても居心地の良い小説。
午後3時に訪れる涙、そして幸せな時間がずっとずっと続けばいいという願い。
ノベルジャム2018にて担当編集した1作ではありますが、ひとりでも多くの方の手にとって記憶に刻んでほしい言葉の数々。卵サンドもコーヒーもケーキもとっても美味しそうなので、空腹時の読書にはご注意あれ!
→特設サイトOPEN
https://peraichi.com/landing_pages/view/goodbyespring
→告知アカウント
https://twitter.com/noveljam2018_de
著者がふだん書いている作品とはまた違った、静謐な世界。
良き女の人が失われて行く世界は、この喫茶店のなかだけで完結しているかのようで、残された男の人は、そこから出て広がっていくことができるのだろうか…そんなことを考えてしまいました。
初稿段階で文体の佇まいに艶を感じて一目置いていました。但し医療を主題にしているところが、私事ですがわたしの本職に重なり、これは冷静になって読めないかなと思ったので少し時間をあけて、ようやく読了したした次第です。
人の生き死にが重なるとどうしてもドラマチックになりますが、この小説では日常の中に潜む生死を良い意味でドライに描いていたところが良かったと思います。これをプロットにして長編に展開してもいいかもしれませんね。
幸せな時間と残酷な時間は同時に流れてゆく、そんな事を思い出させてくれる。登場人物はわずか4人、映像的に展開する独特の文体は短編ドラマを見ているような見応えがある。喫茶店を満たしている音や匂いがダイレクトに伝わった。うっかり泣きそうになる短時間で読めるオススメの一冊。