「この店では雨の日に話が途切れたら怖い話をするというルールがあるんです」バーのマスターから切り出された問いかけに、客で訪れた男が語り始めたのは、少女と笑い狼の神社を探して歩いたことだった。「おじちゃん、笑い狼知らない?」笑い狼とは大犬神社の狛犬ならぬ、狛狼の瞳に年に一度だけ夕日が差し込み、笑ったように見えることを言う。それを見た者の願いを叶うのだそうだ。「おかしいの……あるはずなのに……」少女の記憶を辿ってさ迷っても、なかなか神社には辿りつかない。どうやら少女の記憶の街はどれも30年前で止まっていたのだ。男はそこで初めて、少女が30年前に亡くなった自分の妹ではないかと感じるようになる。ようやく辿りついた神社は、ビルの影になり、もう夕日は差さなくなっていた。笑い狼は笑うのか? 少女の願いは叶うのか? 生きている者と死んでいる者が交錯するバーで、雨の夜に、不思議な話が始まる。
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