我々が『景』という文字を見て、最初に思いつくのは『景観』という言葉だろう。ただ、この『景観』という言葉の歴史は意外にも浅いのである。
大正時代のはじめに、感性で捉えた自然資源の様子であるドイツ語の「ランドシャフト」や、英語の唯物的な自然環境を意味する「ランドスケープ」の日本語訳として案出されたという。
ただ、日本語に訳出される際に最も重要視されたのは、唯物的・視覚的な自然環境を、古来日本人はどのように捉えてきたのか、ということであったらしい。
すなわち、短歌や俳句、また中世に記述された紀行文などに、風物や季節感がどのように描写されたかということである。
それは、景色・風景・風土といった総合的な自然・社会環境を、過去の日本人は物理的な視覚のみで把握したのではなく、森羅万象すべてを心象風景として表現してきたのであり、それが『観』という行為であったということを意味している。
この本では、そんな『景』を『観』する行為の奥深さを追求しようとする内容である。
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